君の知らない空
「あ、あの日の人身事故ね、ただの飛び込みじゃないかもって聞いたよ。誰かに落とされたんじゃないかって」
知花さんが声を潜める。
噂とはいえ、気持ちが悪い。
「ええっ、そうなんですか? 怖っ」
「橙子ちゃん、電車だから気をつけなよ、変な人多いんだからね。
私は自転車だから関係無いけどね」
「知花さん、自転車の方が危ないですよっ? お腹、大丈夫なんですか?」
「はは、大丈夫よ、慣れてるし」
と言って笑い飛ばした知花さんの後ろ、窓の向こう側に見える赤い自転車に私は目を向けた。
まだ、そこに自転車は停まっている。
ほっとして時計を見たら、ここに来てから二時間は経っていた。