君の知らない空
「高山です、おはようございます」
「橙子? おはよう、どうしたの?」
恐る恐る言い掛けた私の声を遮った威勢のいい声は、職場の親友の優美だった。
優美は毎日、誰よりも早く職場に到着している。私と同じ電車通勤だけど、電車の混雑が苦手だからと出勤時間を一時間早めている。
「優美、おはよう。電車が止まってて……いつ動くか分からないらしいの」
とりあえず、縋るような思いで事情を説明した。
周りには私と同じように職場に電話している人たちがいて、競ってるみたいに声が飛び交ってる。うるさくて堪らないから少し離れようと思うのに、見回しても人ばかり。
「そうなんだ、私が来る時はちゃんと動いてたのに……今日朝イチの会議でしょ? どうする? 振替バスは?」
「まだバスは出てないみたいだから間に合わないかもしれない……課長は来てる? 」
課長は車通勤だから、いつも通りに出社するだろう。
「まだ来てないけど、来たら話しておくよ。他にも電車の人は連絡してくるはずだし……」
と言い掛けた優美の後ろで、別の電話が鳴り出したのが聴こえる。
「じゃあ、気をつけておいでね」
「うん、ありがとう」
私が返すと同時に電話は途切れた。