君の知らない空


江藤が私に気づいた。


はっとして目を逸らして、机上へと顔を伏せる。


と思いきや、顔を上げて満面の笑み。
私に向けて手を振ってきた。


何を血迷ったんだか……


周りの打合せメンバーが、何事かと私を振り返る。にやにやしながら。


そんな気は無いと分かってるのに、
ただのお愛想だと分かってるのに、
恥ずかしくて仕方ない。


私は何だか妙な気持ちになって、赤面しながら俯いた。


「橙子さん、どうしたんですか?」


美香が心配そうに覗き込む。


「あ、うん、そろそろ帰ろうか」

「はい」


美香の気持ち良い返事にほっとした。


そうだ、私は残業なんてしてる場合じゃないんだから。


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