君の知らない空

「あの……江藤さんのことなんです」


美香の口から出たのは、意外な名前だった。

私はてっきり、山本さんの名前が出てくるとばかり思ってた。山本さんが怖いとか、言い方がキツイと言い出してもおかしくないのに、なぜ江藤なんだろう?


『美香に気があるんじゃない?』


お昼に優美が言ってたことを思い出して、勝手に胸がドキドキしてきた。


「江藤君がどうしたの? 何かされた?」


まさか、既に江藤は美香に手を出したのか?


「いえ、とんでもないです。江藤さん、すごく優しくしてくれて、助けてくれて……いい人ですね」


と言った美香の頬が、ほんのり赤くなっている。


私は言葉を失った。


あの江藤が、チャラが、優しい?
それは当然下心があるからだろう。


美香、騙されちゃダメだ。


「美香ちゃん、江藤はね、優しいっていうか……みんなにあんな感じなんだよ、特に若い女の子にはね」


すると、美香が顔を曇らせる。


私、悪いことを言ったかな?




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