君の知らない空



「彼氏、いるんでしょ?」


なんて、私には聞けない。
聞く勇気なんてない。
優美がいたなら、きっと迷わず聞いてるだろうけど。


その後も仕事の悩みを聞いたり、いろいろと話したけど正直あまり覚えてない。


それよりも優っていたのは、なぜ江藤なんか…という疑問と、宴会の後に一緒にいた男性は誰?と訊ねたい気持ち。


結局、私は何にも訊ねることが出来ず、悶々とした気持ちを抱えたまま時間は過ぎていった。


「橙子さん、今日はありがとうございました。今日のことは誰にも言わないでくださいね」

 
帰りの車の中で美香が言った。
誰にも……というのは、きっと優美のことだろう。


「うん、言わないよ。何かあったら遠慮なく言ってね」


と言ってみたものの、
話を聞いてあげたとしても解決にならないこともあるだろう。
ごめんね、情けない先輩だ。


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