君の知らない空

美香は車で家まで送ってくれると言ったけど、あまりにも申し訳ないから夕霧駅前まで送ってもらった。


駅から自宅までは歩いて15分ほど、自転車だから5分もあれば着く。


「ありがとう、助かった。また明日ね」

「ありがとうございました。遅くなっちゃってごめんなさい。夜道気をつけてくださいね」


美香の車を見送り、私は駅前の駐輪場に向かった。


もう10時を過ぎているというのに、駅前は賑わっている。とくにコンビニの周りに若者が多いのは、まだ夏休みだからだろうか。


いつもの帰りと同じように、駐輪場から自転車を出してイヤフォンを耳につける。自転車のハンドルにバッグの肩紐を引っ掛けて、バッグを前かごに放り込んだ。


自転車を押して駅前を離れ、高架下へと向かう。
高架下を通り過ぎるまでは人や自転車が多いから、自転車を押していく。だって、私は自転車の運転が上手くないから。


でも、今日は違ってた。


珍しく高架下が空いている。
壁際に並んだ自転車はあるものの、歩行者や自転車の姿がない。


これなら乗っても大丈夫かも。


と、私は思った。


思わなくてもよかったのに、
いつも通り、自転車を押して行けばよかったのに。



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