お握りに愛を込めて
“キーンコーン……カーンコーン……”
「あっ……」
いいタイミングというかなんというか、断りの言葉と同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。
「そういうことだから、ごめんなさい。他、あたってください。じゃあっ」
「あっ、菜子ちゃんっ!」
引き留める彼の声を背にその場から逃げるようにダッシュする。
心苦しいけれど、断るしかないでしょ。
だって、松本家の主婦してるんだし?
って、あれ?
今、私、心苦しいって思ってた?
あの、水沢……ショウ?シュウ……あっ、愁だ。
その人に悪いって思ってる?
そりゃ、悪い気はしなかった。
自分が作ったお握りを、あんなにも誉めてくれる人がいたんだから。
これまでそんなに誉めてもらったことなんてなかったから、だから、正直、嬉しかった。
だけど、これとそれとは、話は別。
だけど、マネージャーがいなかったら、誰がお握りを作るの?
部員が何人いるか知らないけれど、野球の練習しながらお握り作りなんて
そんなこと、誰がするの?無理でしょ?
いやいや、私には関係のない話。