お握りに愛を込めて

“キーンコーン……カーンコーン……”



「あっ……」

いいタイミングというかなんというか、断りの言葉と同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。


「そういうことだから、ごめんなさい。他、あたってください。じゃあっ」

「あっ、菜子ちゃんっ!」

引き留める彼の声を背にその場から逃げるようにダッシュする。


心苦しいけれど、断るしかないでしょ。
だって、松本家の主婦してるんだし?


って、あれ?
今、私、心苦しいって思ってた?


あの、水沢……ショウ?シュウ……あっ、愁だ。

その人に悪いって思ってる?


そりゃ、悪い気はしなかった。

自分が作ったお握りを、あんなにも誉めてくれる人がいたんだから。


これまでそんなに誉めてもらったことなんてなかったから、だから、正直、嬉しかった。


だけど、これとそれとは、話は別。


だけど、マネージャーがいなかったら、誰がお握りを作るの?


部員が何人いるか知らないけれど、野球の練習しながらお握り作りなんて

そんなこと、誰がするの?無理でしょ?


いやいや、私には関係のない話。

< 22 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop