お握りに愛を込めて

あれは、水沢先輩


彼は、おじさんから重そうな米袋を受け取ると、一人、校舎の中へ入って行った。


おもわず、彼の後を追いかけていた。

何も考えず、ただ彼を追いかけた。



彼がやって来たのは、調理室。

誰もいない調理室に米袋をドスンッと置き、何やらぶつぶつ言いながら戸棚を開けている。




「炊飯器……炊飯器……っと、あったっ!
あれ?この蓋、どこに付けるんだ?まぁ、付けなくてもいっか」


ポンっと放置された内蓋に、


「ちょっ、ちょっと待ってっ!」


隠れて見ていたはずなのに、つい声をかけてしまった。


「あっ、菜子ちゃんっ!」

爽やかな笑顔を向けてくれた先輩。


「内蓋、必要ですしっ。
これがないと、美味しいご飯、炊けないんだからっ」

「そうなんだ〜」

「そうなんですっ。
って、水沢先輩がお握り作るんですか?」


ここには、彼しかいないから、やっぱり、そうなの?


「愁でいいし」

「はぁ」

そんなことはどうだっていいんだけど。

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