お握りに愛を込めて
「辞めなくていい。ってか辞めないで下さい」
「愁先輩?」
顔を上げると、優しい顔が目の前にあった。
「菜子ちゃんは、俺らの気持ちも監督の気持ちも、全部分かってるだろ?」
監督の部員を思いやる気持ちも部員の甲子園を目指す気持ちも、全部、全部知ってるつもり。
「だから、辞めなくていいよ」
「けど……」
特別な感情、持ってるよ?
「菜子ちゃんがいなくなったら、野球部みんな、覇気なくなるし。ってか、そんなの言い訳かな。俺が困るんだよ」
「愁先輩?」
「最初に言ったろ?惚れたって」
「え?それって……」
お握りのことじゃなかったの?
私の作ったお握りに惚れたってことじゃなかったの?