千の夜をあなたと【完】
去年の冬。
レティとイーヴの婚約が決まった時、レティは驚きのあまり失神しかけた。
なぜよりによってあたしが……?
とショックで呆然自失のレティに、イーヴは事もなげに言った。
『しょうがないだろ。消去法でお前しか残らなかったんだから』
何をどう消去したのか……、というかむしろ自分も消してくれ。
と内心で叫んだレティにイーヴは楽しげにこう言った。
『ご愁傷様。一生こき使ってやるから、覚悟しなよ?』
その言葉にレティは頭がくらっとし、卒倒しかけた。
――――未来は暗い。
どんな未来になるのかまるで想像がつかない。
レティも伯爵令嬢として結婚がどういう意味を持つのかというのはわかっている。
家と家との結び付き、そして……。
いずれは世継ぎを残さねばならない。
「……」
自分が子を生むなどまるで想像がつかない。
しかもそれがイーヴとの子となれば、猶更だ。
レティは内心でため息をつきながら、パンをちぎって口に放り込んだ。