千の夜をあなたと【完】
――――それから数日後。
あの青年がレティに縁談を申し込んだと伝え聞いたイーヴは、なぜか居てもたっても居られなくなり、父のもとへと向かった。
そしてブラックストンの力でそれを取り消させた。
これまでイーヴが女性絡みでそういったことを父に頼んだことはなく、かつてない息子の様子に驚いた父は瞠目して息子を見た。
『……珍しいな、お前がわしにこんなことを頼むとはな』
と言った父に、イーヴは言った。
『ついでにもう一つ、頼みがあるのですが』
『何だ?』
『俺が父上の後を継ぐかわりに、レティーシャ・ティンバートとの結婚を認めて頂きたい』
息子の言葉に父は仰け反った。
無理もない。
これまで女の『お』の字も興味を示さなかった息子が突然結婚を口にしたのだ。
しかしティンバートは伯爵家だ。
父はしばし息子を凝視した後、軽く首を振った。
『ティンバートは伯爵だ。侯爵の息子であるお前とは身分が違う』
『承知の上です』
『……妾としてなら認めるが、正妻として認めるわけにはいかん』
『であれば俺は、一生をアカデミーで過ごすまでです』