千の夜をあなたと【完】
9.雷の夜
ある日の夕刻。
レティは夕食の後、自室でリュシアンやセレナとともに楽器の練習をしていた。
来月に開催されるイーヴの誕生日の舞踏会で、兄妹で『ソールズベリーの聖歌』を演奏・斉唱する予定になっているからだ。
「あー、かったるー……」
と思わずぼやいたレティに。
隣の椅子に座ったセレナは、声楽の本を片手にくすくすと笑った。
ちなみにセレナは楽器より声楽が得意で、舞踏会ではリュシアンのリュートとレティのリラに合わせて歌う予定だ。
「駄目ですよ、お姉様。旦那様になる方のお誕生日なのですから」
「……」
レティはリラ(竪琴)の弦をつつきながら、はぁとため息をついた。
レティは昔から楽器の中ではリラが比較的得意だ。
……というより他の楽器が全く駄目だったので、他に選択肢がなかったのだが。
兄のリュシアンはリュート(ギターに似た楽器)を得意としている。
兄はリュートの他にもフィドル(ヴァイオリンの前身)を得意としており、同じくフィドルを得意とするイーヴとたまに合奏をしている。