千の夜をあなたと【完】
「……でも、イーヴって音楽とか好きなの? 楽師を呼んでるところとか、見たことないけど」
「少なくとも楽器よりは薬草をいじる方が好きだろうな。……でもオレ達が合奏するのも多分これが最後だ。夏になればお前はグロスターに行くんだからな?」
「……」
リュシアンの言葉にレティはそっと目を伏せた。
……そう、兄妹で合奏するのもこれが最後だ。
これまで兄妹は父の誕生日の舞踏会などでも合奏してきた。
他の貴族の家よりは仲の良い兄妹と言えるだろう。
こうしてレティの部屋で集まって練習するのも今回が最後なのかもしれない……。
と少ししんみりしたとき。
「……外まで音が漏れてるよ。ドアを締めたらどう?」
低いアルトの声と共にイーヴが顔を出した。
イーヴは陽の光を織り上げたかのような美しい金の髪を揺らし、部屋へと入ってくる。
リュシアンは笑いながら顔を上げた。
「お前の舞踏会で演奏する曲を練習してるんだ。お前に聞かれたら面白味が減るだろ?」
「お前達が演奏できそうなのって言ったら、ソールズベリーの聖歌ぐらいだろ? 違うか?」