千の夜をあなたと【完】
イーヴはくすりと笑い、悪戯っぽい表情で言う。
レティは内心でため息を漏らした。
イーヴが天才なのは知っているが、ここまでズバッと言わなくても……。
やはり伯爵様のヘソの曲がり具合は普通ではない。
肩を落としたレティの横に、イーヴは椅子を引き寄せて座った。
壁に立てかけてあったリュシアンのフィドルを取り、調律を始める。
「……え?」
と目を丸くするレティに。
イーヴはくすりと笑い、青灰の目を細めた。
「今日は時間があるから付き合ってやるよ。未来の妻が舞踏会で恥をかかないようにね?」
「……」
レティは何とも言えない目でイーヴを見た。
なんだか素直に有難いと思えない。
しかしイーヴのフィドルの腕は確かで、その他の楽器も人並み以上に演奏することができる。
本人は音楽の道に進むつもりはからきしないが、話を聞くところによると、グロスターにいた頃、高名な楽師達がこぞってイーヴに『ぜひ音楽の道に!』と勧めに来たらしい。
こんなところまで天才だと、なんだか不公平すぎて神を恨みたくなる。
レティは内心で盛大なため息をつき、リラを持ち直した。