千の夜をあなたと【完】
言い、イーヴはくるりと踵を返す。
その冷たい背中に、レティはぐっと手を拳に握りしめた。
なぜか目尻にじわりと涙が滲む。
――――あの時と同じだ。
イーヴはレティを置いて行ってしまう。
レティは思わず口を開いた。
「ま、待ってよ……っ」
「……」
「ま……待って……っ」
必死の形相で言ったレティに。
イーヴは髪を揺らして振り向き、にこりと笑った。
いつになく優しげな、春の淡雪が溶けるかのようなふわっとした笑顔に思わず目を奪われる。
しかしイーヴがこんな笑い方をするとき、レティはろくな目に遭ったことがない。
息を飲んだレティに、イーヴは言った。