千の夜をあなたと【完】
「リカード様もリュシアン様も、それなりにお顔を知られております。なのでまずは御二方を標的とし、その後、レティ様やセレナ様を害そうとするでしょう」
「……エスター卿は、どう思われる?」
「とりあえず屋敷の警備の強化を。そして極力、外出なさらない方がよろしいかと」
「そうだな……」
当面、そうするしかない。
と頷いたリカードに、エスターは首を傾げて聞いた。
「ところで、イーヴ様には、この件は?」
「いや、まだ話していない。まだお若いし、アカデミーで勉学に励んでらっしゃるイーヴ様に余計な心配をかけるわけには……」
と言ったリカードだったが。
ドアの方から突然投げられた声に、その言葉を途中で止めた。
「……言っとくけど。コソコソ隠される方がよほど気になるんだけど?」
よく通る低いアルトの声に、リカードは息を飲んだ。
――――見ると。
半開きになったドアの間からイーヴが腕を組んでじっとこちらを見つめている。
リカードは内心で息をつき、腰を折って一礼した。