千の夜をあなたと【完】



「遅いな、イーヴ……」


イーヴはまだ来ない。

レティはイーヴの青灰色の瞳を脳裏に思い浮かべた。

ブラックストン伯爵ともなれば相手は選り取りみどりのはずなのに、イーヴはなぜ自分を婚約者にしたのか……。

『消去法』と言っていたが、何をどう消去して自分が残ったのかよくわからない。

頭のよすぎる人間の考えることは、やはり常人には考えが及ばない。


ちなみにイーヴの実家であるブラックストン侯爵家には、レティは5年ほど前に一度だけ行ったことがある。

ブラックストン家はウェールズの南部・グロスターを拠点とする一族で、その歴史はティンバート家よりも遥かに古い。

グロスターの近くには鉄鉱石の産出が盛んなディーンの森があり、そのためグロスターは昔から製鉄が盛んで、周辺では製鉄技術の研究も行われている。

ブラックストン家も代々製鉄技術の研究に携わっており、『森と鉄の守護者』と呼ばれている。

そういった経緯もあってかブラックストン侯爵家は代々アカデミックな人材を輩出しており、イーヴもまさにその一人だ。

ちなみにブラックストン家はその屋敷が黒煉瓦でできていることから、『黒石の城』『知識の城』と呼ばれている。


「……」


レティははぁと息をつき、辺りを見回した。

イーヴはまるで来る気配がない。

人を呼んでおいて一体どういうことなのか?

ティンズベリー教会に行くと言っていたが、あまり遅くなると教会も迷惑なはずだ。



< 12 / 514 >

この作品をシェア

pagetop