千の夜をあなたと【完】
エスターはひとつ息をつき、天井を振り仰いで目を閉じた。
瞼の裏で、想い出の中の人が優しく微笑みかける。
――――けぶるような長い金髪に、美しい翠の瞳。
今はマシュー川沿いの小高い丘の上で眠っている、愛しい人。
そしてその隣に寄り添う、兄の姿。
忘れもしない、兄の大きな褐色の二重の瞳……。
「……っ……」
エスターは唇を噛みしめた。
脳裏から追い払おうとしても消えない、厭わしいあの褐色の瞳。
あの瞳が彼女を見る度に、エスターは心が引き裂かれそうな思いを味わってきた。
そう、ずっと昔から……。
そしてそれは今も変わらない。
兄と全く同じ瞳を持つ、あの娘……。
姉妹であるから仕方がないと思っていても、二人を見るたびに、兄とあの愛しい女性の姿を思い出してしまう。
あの娘に恨みはない。
ただ、兄と同じ褐色の目を持って生まれてしまった、それだけだ。
そしてブラックストンにも恨みはない。
だが……。
「……」
もう引き返すことはできない。
エスターはグラスをテーブルに置き、窓の外に広がる闇をじっと見つめた。
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