千の夜をあなたと【完】
11.血塗られた夜
3月の末日。
イースターを一週間後に控えた日。
レティは夕方、部屋で小鳥に餌をやっていた。
去年の誕生日にリュシアンに貰ったその小鳥は青い羽根が美しく、レティは毎日、手ずから世話をしている。
「……ほら、そんなに急いで食べちゃダメだって」
レティが餌を与えると、小鳥は物凄い勢いで食べ始めた。
ここまで食欲があるのは珍しい。
と思った、その時。
レティは窓の外、庭の隅に黒い影のようなものがすっと横切るのを見た。
犬のように素早かったが、それなりに大きかった気もする。
何だろうか。
レティは窓の傍に寄り、目を凝らしてみたが、その影を再び見ることはできなかった。