千の夜をあなたと【完】
<side.エスター>
西日が木張りの廊下を赤く照らしている。
エスターは2階の廊下を歩いていた。
『赤の間』の前で足を止め、辺りに人目がないことを確認してすっとドアの中へと入る。
「……」
エスターは正面の壁に歩み寄ると、壁に掛かっていた剣を外した。
剣の柄を握り、赤銀の刀身をじっと見つめる。
その刃に、自らのアンバーの瞳が映り込む。
「クームブラン。『報復するもの』、か……」
エスターは刃に映る自分の瞳をじっと見つめ、目を細めた。
……何の感情も映していない、冷たい瞳。
多分レティやセレナは見たことがないであろうその瞳に、エスターは自嘲するように笑った。
「報復、か。私にもこの剣を揮う理由はあるが……」
言いながら、エスターは胸ポケットに入れてきたスカーフを取り出した。
手際よく剣ごとくるくるっとスカーフで包み込む。
「私より、この剣を揮うに相応しい人間が現れるかもしれないな……」
その呟きは誰に聞こえることもなく、宙へと溶けていった……。