千の夜をあなたと【完】
二人はクラスを掲げ、軽く乾杯した。
セレナはグラスに口をつけ、ゆっくりとそれを傾ける。
エスターは静かな笑みを浮かべながら、それを見つめていた。
……そして、数分後。
セレナはふっと目を閉じ、脱力したようにくたっと床に崩れ落ちた。
エスターはとっさにその手からグラスを取り上げ、テーブルの上にそっと置いた。
エスターの腕の中でセレナはすうっと軽い寝息を立てている。
「効いたようだな……」
エスターはセレナを抱き上げ、寝台へと運んだ。
既に人払いしており、しばらくはここに来る人間はいないはずだ。
……そう、あの男も……。
エスターは寝台の端に腰かけ、脚衣のポケットに入れてあった銃を取り出した。
それは東方から伝来した小型の銃で、この時代、まだヨーロッパではあまり見ることはない。