千の夜をあなたと【完】
そんなイーヴの目前で男が短剣を振り上げる。
……一寸の容赦のない苛烈な蒼い瞳。
とても人とは思えない、血に魅せられているその瞳。
イーヴは息を飲んだ。
――――その瞬間。
「イーヴ、危ないっ!!」
甲高い声とともに、イーヴは横から物凄い力で突き飛ばされた。
驚き、目を見開いたイーヴの目の前で……
レティの肩口に、男の短剣が突き刺さった。
「……っ……」
レティは痛みに目を見開き、その場に立ち尽くしている。
レティの白い夜着が、みるみるうちに赤く染まっていく。
イーヴは頭の中が真っ白になるのを感じた。
しかしレティの行動に驚いたのは、男も同じだったらしい。
ずるり、という音とともにレティの肩から短剣が抜け、レティがその場に崩れ落ちる。
その姿を男は呆然と見つめていた。
驚愕に見開かれた蒼い瞳が、じっとレティを凝視している。
その表情に先ほどまでの鋭さはない。