千の夜をあなたと【完】
「……」
イーヴはとっさにレティに駆け寄ろうとした。
――――しかし。
イーヴの前に男がすっと立ちはだかった。
目を剥くイーヴの前で、男はどういうわけか血に濡れた短剣を床に投げ捨てた。
カランという音とともに短剣が床に転がる。
男はそのままレティを素早く肩へと担ぎ上げ、窓の方へと足早に歩み寄る。
「……レティ!!」
イーヴは叫んだが、男は振り返ることなく窓を開けた。
ふわりと床を蹴り、夜の闇へと姿を消す。
男とともに、レティの姿も闇の中へと消えていく。
イーヴは二人が消えた窓を呆然と見つめていた……。