千の夜をあなたと【完】




――――レティが自分を庇い、刺された時。

イーヴは自分の無力さを心の底から思い知った。

いくら知識があっても、天才と呼ばれても……

いざという時にその場を支配するのは、純粋な『力』だ。

自分にはその力が致命的に欠けていた。


イーヴはぐっと目を瞑り、手を拳に握りしめた。

包帯の巻かれた左腕にじわりと血が滲む。


悔やんでも、悔やみきれない。

目の前で刺され、痛みに歪んだレティの表情。

……守れなかった……

ただ一人の、愛しい人……。


イーヴは目元を片手で覆い、呻いた。

……今は冷静な判断ができない。

あと数日すればグロスターからブラックストンの騎馬兵が来る。

しかしそれまでは、ティンズベリーで自分の命で動く兵はいない。

レティを探そうにも自分一人ではどうにもならない。

しかし居てもたってもいられない。



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