千の夜をあなたと【完】
「港の倉庫の裏で、メイアの海賊達がやられたって……しかもたった一人の剣士に!」
「まさに非情の剣士って感じよね。命乞いしても躊躇なく殺すらしいわよ? だから氷眼の狂剣士なんて呼ばれてるのかしら?」
「きっとそうよ。ティンズベリーではこれまで聞かなかったけど、ついに来たのかしらね? ああ、こわっ」
二人の会話にレティは息を飲んだ。
『氷眼の狂剣士』の噂はレティも何度か聞いている。
凄腕の剣士だが残虐非道で、海賊などの悪人を手に掛けることもあれば、一般の市民を手に掛けることもあるらしい。
『非情なること氷の如く、その剣の速いこと稲妻の如し』
……と前に兄のリュシアンが言っていた気がする。
もちろんリュシアンも会ったことはなく、噂で聞いたのだろうが……。
そんな人間が本当にティンズベリーに来ているのだろうか?
と内心でぞっとしたレティの肩が、後ろからぽんと叩かれた。
「……っ!?」