千の夜をあなたと【完】
コンコンとドアをノックする音がし、イーヴははっと顔を上げた。
見ると。
エスターが一礼し、部屋へと入ってくる。
エスターは片手に布でくるまれた長細いものを手にしていた。
「失礼いたします、イーヴ様」
「……」
「このような時に、このような知らせを伝えたくはないのですが……」
エスターは低い声で、一つ一つ、言葉を選ぶように言う。
そのアンバーの瞳はイーヴと目を合わせようとしない。
その様子にイーヴは心がすっと冷えていくのを感じた。
――――そして。
続いたエスターの言葉に、イーヴは目を見開いた。
「……先ほど、海岸警備隊から連絡がありました。栗色の髪の若い女性の遺体が、全裸の状態で海で発見されたそうです」
「……」
「まだ、死後さほど時間は経っていないそうです。海に打ち上げられたのは一刻ほど前とのこと」