千の夜をあなたと【完】
二章
1.亜麻色の髪の男
――――左肩が、痛い……。
熱があるのだろうか、頭がぼーっとする。
耳を澄ますと潮騒の音が聞こえてくる。
ここは、どこなのだろうか……。
レティはふっと目を開けた。
褐色の瞳に見覚えのない粗末な藁ぶきの天井が映る。
そして……。
「……っ!」
傍らに男が座っていることに気付き、レティは息を飲んだ。
男は床に胡坐をかき、横からレティの顔をじっと覗き込んでいる。
あの時と同じ黒い服を身に着けているが、頭部の布は取られ、端整な顔が露わになっている。
艶やかな長い亜麻色の髪、万年雪を思わせる冴え冴えとした蒼い瞳……
レティは驚愕とともにその顔を見つめていた。
――――以前、庭で見たあの男だ。
レティは動揺しながらも、何があったのかを必死に思い出そうとした。
父の悲鳴と、そして……。
自分を守ろうとしてくれた、イーヴの姿……。