千の夜をあなたと【完】




男の指はレティが舌を噛まないよう歯の間へと入れられている。

レティは動揺しながらもキッと男を見た。

こうなれば力の限り抵抗するしかない。

レティは男の指を噛み千切る勢いで、ガリッと噛んだ。


「……っ」


男の目が一瞬、痛みに歪む。

レティはひたすら男の指を噛み続けた。

男は驚いたようにレティを見つめていたが、やがてその瞳が楽しげに細められた。


「……お前は犬か?」

「……」

「その程度の力では、おれの指を噛み切ることはできん。……それとも何だ? 腹でも空いているのか?」

「……」

「おれの指より美味いものは世の中に五万とある。少しおとなしくしていろ」


男は言いながら、片手で脇に置いてあった小さな皿のような物を取った。

皿の上には緑の軟膏のようなものが置いてある。

男はそれを指先で掬い、レティの肩の傷口に塗りつけた。

ひやりとした感触の後、染みる痛みがレティを襲う。



< 147 / 514 >

この作品をシェア

pagetop