千の夜をあなたと【完】
男の指はレティが舌を噛まないよう歯の間へと入れられている。
レティは動揺しながらもキッと男を見た。
こうなれば力の限り抵抗するしかない。
レティは男の指を噛み千切る勢いで、ガリッと噛んだ。
「……っ」
男の目が一瞬、痛みに歪む。
レティはひたすら男の指を噛み続けた。
男は驚いたようにレティを見つめていたが、やがてその瞳が楽しげに細められた。
「……お前は犬か?」
「……」
「その程度の力では、おれの指を噛み切ることはできん。……それとも何だ? 腹でも空いているのか?」
「……」
「おれの指より美味いものは世の中に五万とある。少しおとなしくしていろ」
男は言いながら、片手で脇に置いてあった小さな皿のような物を取った。
皿の上には緑の軟膏のようなものが置いてある。
男はそれを指先で掬い、レティの肩の傷口に塗りつけた。
ひやりとした感触の後、染みる痛みがレティを襲う。