千の夜をあなたと【完】




「……っ……」


レティの口から力が抜け、男の指が口からぽろりと抜ける。

レティは痛みに耐えながら、どこか毒気を抜かれた顔でぼーっと男の顔を見上げていた。

男は指先で丁寧に傷口に薬を塗りつけていく。


どうやら襲うつもりではなかったらしい。

しかし油断はできない。

キッと睨みつけるレティの前で、男は脇に置いてあった袋から何かを取り出した。


「腹がすいただろう。食え」


言い、男は取り出したパンをレティの口に問答無用で突っ込んだ。

パンはそれなりに大きく、拳大ほどの大きさがある。

レティは突然のことに目を白黒させた。

人の口に何かを突っ込むのはこの男のクセなのだろうか。

しかしこんな、何が入っているかわからない食物を食べるわけにはいかない。

レティはペッとそれを吐き出した。

それを見、男の目がすっと細められる。

……殴られるだろうか。

と一瞬ひやっとしたレティだったが、男は気にした様子もなく続けて袋の中に手を突っ込んだ。

袋の中から林檎を取り出し、それをレティの口に突っ込む。


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