千の夜をあなたと【完】




「……っ!?」


そもそも両手が使える状態であっても、林檎を丸かじりするのはそれなりにしんどい。

レティはポイとそれを床に落とした。

……というより、落ちたという方が正しいが。


男は再び目を細めてそれを見つめた後、今度は肉の塊を取り出した。

豚だろうか、こんがりと焼かれて美味しそうではある。

しかし塊の大きさは大人の拳大ほどもあり、とても一口で食べられるサイズではない。

目を見開いたレティの口に、男は肉の塊を突っ込んだ。

レティは目を白黒させた。

……息が、できない。


「……っ、ふ……ぐ……っ」


レティは涙目になり、必死にそれを吐き出した。

……窒息して死んでしまう。

男はそれを無言で見つめた後、静かに口を開いた。



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