千の夜をあなたと【完】
思わずびくっと背筋を強張らせ、振り返ったレティの目に見覚えのある顔が映る。
美しく、どこか物憂げな青灰の瞳。
イーヴは白いシャツの上に黒い長衣を身にまとい、黒い革靴を履いている。
その姿は金の髪と白い肌に良く映え、とても格好いい。
――――そう。
イーヴは黙っていれば文句なしに格好いいのだ。
黙っていれば、だが。
突然のことに動揺したレティに、イーヴもまた驚きの目を向けた。
「そこまで驚かれると、むしろこっちがびっくりするんだけど」
「……ご、ごめん」
「さ、行くよ。今日は薬草摘みだから肉体派のお前にはちょうどいいか?」
肉体派って……。
レティはがくりと肩を落とした。
伯爵家のレディに、しかも婚約者に向かって言う言葉では、断じて、ない。
レティははぁぁとため息をつき、イーヴの後に続いて馬車に乗り込んだ。