千の夜をあなたと【完】
「……お前が何が好きかわからないから、適当に調達してきたんだが」
「……」
「お前は一体何が好きなんだ。何なら食べる?」
男は心底困ったような顔でレティを見る。
その蒼い瞳には、あの時見せたような鋭さも昏さもない。
レティは唖然とし、男を見た。
――――いや、食べ物の問題ではなく、食べ方の問題なんだけど。
と言おうとしたが、なぜか言葉にならない。
どうやらこの男は思っていたより悪辣な人物ではないらしい。
じっと見つめるレティの視線の先で、男はすっと立ち上がった。
そのまま無言で部屋を出ていく。
レティは無言でその背をじっと見つめていた。