千の夜をあなたと【完】



「……う……うぅっ……」


父にもう会えないと思うと、涙が零れ落ちる。

厳格だったが、子供たちのことを何よりも考えてくれた父。

そんな父が10年前に悪事を働いていたなど……

信じたくない。


「嘘よ、……っ、信じられない……」


涙を流すレティに。

男──ライナスはひとつ息をつき、口を開いた。


「お前たちの前ではいい父だったのかもしれない。が、何かのきっかけで人は一瞬にして悪人になるものだ」

「……」

「普段善良な人間が、突然悪人になる。だから人は恐ろしい。しかし普段善良であったとしても、犯した罪の重さは変わらない」


ライナスは淡々と言う。

その言葉をレティは涙とともに聞いていた。

ライナスの言葉は正しい、けれど……。

レティは涙に濡れた瞳でライナスを見た。


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