千の夜をあなたと【完】
「ねぇ、ライナス。……ライナスはまだ、ティンバートの人間を狙うつもりなの?」
「……」
「お父様も、ナイジェル叔父様も亡くなったわ……。それでもまだ、足りないの?」
レティの言葉に、ライナスはすっと目を細めた。
……氷を思わせる冷たい瞳。
レティはその冷たさに心が凍るような気がした。
「この憎しみはもう、おれの心に巣食っている。そう易々と捨てられるものではない」
「……っ、そんな……」
「きっとお前には想像もつかないだろう。憎しみというものがどれだけ人の心を病ませるのか。その重みに、どれだけ苦しまなければならないのか……」
ライナスはレティから目をそらし、ため息をついた。
その目はどこか哀しげで、寂しさを感じる。
レティが何の不自由もなく、ティンバートの屋敷で幸せに過ごした10年の間……。
ライナスはきっと孤独の中、ひとり憎しみを抱えて苦しんでいたのだろう。
レティの10年とライナスの10年はあまりに違う。
下手な言葉をかけることはできない。
しかし……。
まだ復讐は終わっていないと考えると、ライナスはいつか自分を襲うつもりなのだろうか。
思わずぶるっと身を震わせたレティに、ライナスは苦笑交じりに言った。