千の夜をあなたと【完】
イーヴの言葉にダグラスは目を見開いた。
しばしの沈黙の後、目元を覆ってはーっと息をつく。
予想通りの反応だったが、イーヴは顔色を変えずじっと父を見つめた。
「……あのティンバートの娘の件か?」
「……」
「イーヴ、あの娘のことはもう忘れろ。もともとあの娘とお前とでは身分が違う。これはある意味、神の御意志だったのかもしれん」
ダグラスの言葉に、イーヴは内心でカッと怒りが沸き上がるのを感じた。
あんな運命が『神の御意志』であるなら、自分は神に刃を向けることも厭わないだろう。
しかしここで怒ってしまっては、目的を達成することはできない。
イーヴは意志の力で怒りを押し殺し、口を開いた。
「もちろん、タダでとは申しません。代わりに、何か父上のご要望をお聞きします」
「要望、か……」
ダグラスはふーむと首をひねり、腕を組んだ。
そしてしばし考えた後、じっとイーヴを見つめ、口を開いた。
「……ではひとつ、条件を出そう」
「何なりと」
「ちょうど今、ブライス侯爵家からお前宛に縁談が来ている。この縁談を受ければ、お前に一個小隊をやろう。どうだ?」