千の夜をあなたと【完】
「……」
イーヴは廊下の途中で足を止め、自らの手を見た。
薬草を扱ってきたせいで、細かい傷が無数にある掌。
しかし……。
この手ではレティを救うことができなかった。
イーヴは手をぐっと握りしめ、窓の外を見た。
あの時、自分にもっと力があれば……
あの男に引けを取らないほどの剣の腕があれば……
レティをあんな目に遭わせることはなかっただろう。
わずかな時間が、人生の意味を変えることがある。
イーヴにとってはあの夜がその瞬間だった。
そしてその時間で必要になるのは、薬草の知識などではなく、純粋な『力』だ。