千の夜をあなたと【完】
とっさに『海辺に遺体が上がった』とイーヴに報告し、イーヴがそれを信じたから良かったようなものの、そうでなければブラックストンは今もここに駐留しただろう。
ちなみに葬儀で用意した遺体はレティのものではない。
似たような年恰好の女の死体を用意し、エリオットに加工させた。
『顔は水で膨れてひどい状態だから』と包帯でぐるぐる巻きにして棺桶に入れたのだが、それがさらにイーヴの復讐心を煽ったようだ。
今、イーヴがどんな心境で何をしようとしているのか、エスターにはよくわかる。
それは十数年前、エスターも味わった感情だからだ。
『報復するもの』をイーヴに渡したのは、エスターにしてみれば餞のつもりだった。
レティが生きているのかどうかはエスターにもわからない。
しかし、もし生きているのであれば……きっとイーヴは彼女に辿り着くだろう。
そして、リュシアンは……。
「……」
エスターの唇の端に笑みが浮かぶ。
……彼については心配はない。
今のところは。