千の夜をあなたと【完】
4.レティの涙
――――初夏。
湿気を含んだ風が表に干した衣類をぱたぱたと揺らす。
レティは窓越しに、外に干した衣類を慌てて取り込んだ。
今日は昼過ぎまでは天気が良かったのだが、午後から天気が悪くなってきた。
この分だとひと雨くるかもしれない。
あれから2か月。
レティはあの粗末な家でライナスとともに生活していた。
ここに来て一週間ほどは怪我のためほぼ寝たきりだったが、今は回復し、家のことも普通にこなせるようになってきた。
炊事、洗濯、掃除……
ティンバートにいた頃はそれらの全てをメイド達がやってくれていたが、ここでは自分でやらなければならない。
けれど何もせずにじっとしているよりは、体を動かしている方がいい。
何も考えずに済むからだ。
レティが連れてこられたこの家は、ウェールズではなく、北のアイリッシュ海に浮かぶマン島にある。
レティが怪我で意識が朦朧としている間に、ライナスは海を渡ったらしい。