千の夜をあなたと【完】




強制的に連れてこられたとはいえ、屋敷の中で裁縫やら糸紡ぎやらをするよりは、まだこうして体を動かす方が性に合っている。

『時間があれば糸紡ぎや裁縫をする』のが貴族の女性の美徳ではあるのだが、イーヴにとってそれはさほど価値がないらしく、その点についてだけは有難いとレティも思っている。

貴族の女性にとって大事なのは裁縫や糸紡ぎの腕で、作法や音楽、ダンスなどの教養は二の次だ。

ナイジェルではないが、レティもなぜ自分が貴族の家に生まれてしまったのかよくわからない。

しかもそんな自分が侯爵家の息子の婚約者になるとは、ますますもってわからない。


「まずは摘みに行くか~……」


レティは大きく伸びをして、教会の裏の薬草園へと向かった。



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