千の夜をあなたと【完】
翌日。
レティが目を覚ますと既にライナスの姿はなかった。
いつもは軽く何か食べてから出かけていくのだが……
急ぎの用でもあったのだろうか。
レティは首を傾げつつ、朝食の準備を始めた。
そして昼過ぎ。
部屋の片づけをしていたレティの耳に、キィと家のドアが開く音がした。
慌ててドアの方へと駆け寄ると。
ドアの隙間から、ライナスが小さな籠のようなものをレティへと差し出した。
「受け取れ」
「……え、ええっ?」
ライナスはレティに籠を押し付けると、パタンとドアを閉じた。
レティは閉じられたドアを呆然と見つめた。
その腕には、籠が残されている。
部屋の中に戻り、籠をそっと開けてみると。
「……わぁっ……」
籠の中には小さな猫がすやすやと寝息を立てていた。
縞模様が可愛らしい、まだ生後数か月の猫だ。
ライナスは自分が暇していると思い、猫をくれたのだろうか。
レティはその褐色の目を輝かせ、籠の中の猫をじっと見つめた。