千の夜をあなたと【完】
――――ある秋の夜。
レティは深夜、ふっと目を覚ました。
あれからもう、どのくらい経ったのだろう……。
イーヴもセレナもリュシアンも……どうしているだろうか。
皆の顔を思い出すと、涙が溢れてくる。
レティはベッドから起き上がり、ふらふらとライナスの傍に寄った。
幾度、ライナスを手に掛けようと思ったか……。
けれどどうしても、レティにはライナスを手に掛けることができなかった。
それは一緒に生活するうちに、ライナスのことが少しずつ分かってきたせいでもある。
ライナスは、不器用で……でも優しく、情が深い人だ。
その情の深さ故に、家族を殺された憎しみがあれほどまでに大きくなったのだろう。
そんな気がする。
きっと元は悪い人ではない。
そう思うと、どうしても手に掛けることができなかった。
「……っ……」
レティはライナスの傍に膝をつき、その美しい貌を眺めた後、ぐいと涙を拭った。
亜麻色の髪に精悍で形の良い頬、万年雪のような蒼い瞳……。