千の夜をあなたと【完】
10年前のことがなければ、ライナスは今頃、可愛い奥さんや子供と共に暖かく幸せな家庭を築いていただろう。
そう……
あの事件がなければ、レティも今頃、イーヴのもとに嫁いでいたように……。
レティは体を起こし、立ち上がろうとした。
その時。
寝ていると思ったライナスが、くるりと体ごとレティの方を向いた。
「……!」
驚くレティの前で、ライナスはゆっくりと身を起こした。
……夜闇の中でも美しい、その蒼い瞳。
レティは慌てて言った。
「ご、ごめん。……起こしちゃった?」
と言ったレティの頬に。
ライナスは腕を上げ、そっと指を伸ばした。
その感触にレティはドキッとした。