千の夜をあなたと【完】
「お前には、おれを殺す機会などいくらでもあったはずだ」
「……ライナス……」
「おれは、お前がおれを殺そうとするなら、お前の剣を受けるつもりでいた。お前にはそうするだけの理由も動機もある」
ライナスの言葉を、レティは目を見開いて聞いていた。
信じられない……。
ライナスは少し笑い、レティの目を正面から見た。
――――真剣で、どこか切ないその瞳。
食い入るように見つめるレティに、ライナスはその形の良い唇を開いて言った。
「命の罪は、命でしか贖えない。……おれも、自分自身の罪はわかっている」
「……」
「だがお前は、そうしなかった。ただ一人で、こうして泣くだけで……」
「……っ……」
レティは言葉を詰まらせた。
ライナスは知っていたのだ。
……自分が夜に泣いていたことを。