千の夜をあなたと【完】
5.緋の魔剣士
<side.イーヴ>
ブライス侯爵家の令嬢・ディナリアとの婚儀を一週間後に控えた日の午後。
イーヴは自室で兵法の本を読んでいた。
昔は全く兵法など興味はなかったのだが……
今となっては、なぜもっと学んでおかなかったのだろうと悔やまれる。
「いや、違うな……」
イーヴは呟き、首を振った。
いくら知識があったところで、それを適切な場面で適切に使えなければ意味がない。
……自分に欠けていたのは、むしろそれだ。
イーヴは立ち上がり、本棚の前に歩み寄った。
その背はこの半年でだいぶ高くなり、まさに青年という感じだ。
体つきもだいぶがっしりとし、父が主催する舞踏会などでは女性陣の熱い視線を集めている。
そしてそれ以上に、どこか影のある雰囲気が御婦人方の興味を集めていた。