千の夜をあなたと【完】
6.失って気付くもの
――――季節は流れ、初冬。
レティは雪が舞う中を、ライナスとともに教会の方に向かって歩いていた。
教会といってもケルト教会で、レティがティンズベリーで行っていた聖教会とは違う。
……昨日の夜。
ライナスから教会のことについて聞いたレティは興味をつのらせた。
『えっ、『黒い聖母』?』
『そうだ。このあたりはもともと、土着の大地母神信仰が篤かった。それで土を現す黒い木で、聖母像を彫ったらしい』
『へぇ~……』
聖教会からすると異端ではあるが、こそっと見るくらいなら構わないだろう。
それに、たまには外に出て市場で買い物がしたい。
人間恐ろしいもので、あまりに特異な環境であっても一か月もすれば慣れてしまう。
そして半年が過ぎた今、レティはマン島での生活にすっかり馴染んでいた。
――――あの夜。
ライナスが『復讐をやめる』と言った後、レティは何度か『帰りたい』とライナスに言ってみた。
が、ライナスはその度にあっさりと首を振った。