千の夜をあなたと【完】
<side.セレナ>
冬のある日。
セレナは暖炉の前で詩学の本を読み耽っていた。
あの事件の後、セレナはしばらく心労のあまり床に臥せていたが、エスターが気晴らしに詩学や音楽に付き合ってくれたため、夏が過ぎる頃には前と同じような生活に戻っていた。
……といっても、今は父も兄も姉もいない。
頼れるのはエスターだけだ。
エスターはセレナの後見人として屋敷の一切を取り仕切ってくれている。
そしてリュシアンが行方不明のため、伯爵位は宙に浮いている。
リュシアンが戻ればリュシアンが伯爵位を継ぐのだろうが、そうでなければ……。
「……」
このところ、セレナのもとには縁談が山のように来ている。
それは侯爵家だったり、伯爵家だったり……
彼らの狙いは明確だ。
リュシアンが行方不明になって一年が経とうとしている今、表立ってではないが、リュシアンの生存は絶望視されている。
そのためセレナと結婚すれば、婿としてティンバートの伯爵位を継ぎ、ティンズベリーを手中に治めることができる。
エスターは適当に断ってくれているが、いつまでも断り切れるものでもない。
けれど……。