千の夜をあなたと【完】
「ケヴィン様……」
セレナははぁと切なげなため息をついた。
一か月ほどの前の舞踏会で、セレナは久しぶりにケヴィンに会った。
舞踏会はリネットが開催したもので、セレナはエスターとともに舞踏会に出席した。
ケヴィンは相変わらず好男子で、爽やかで……
まさに王子様、という感じだった。
『……お久しぶりですね、セレナ。あなたのことをずっと心配していました』
ケヴィンはそう言い、セレナに手を差し出した。
セレナがその手を取ると、ケヴィンはホールの中央までエスコートし、優雅な仕草でダンスをリードしてくれた。
――――夢のような、あのひととき。
けれど、今となってはもう……
ノースウェルズ王家がこんな状態のティンバートと縁談など、考えるはずもない。
あの事件がなければ今頃、自分はケヴィンの妻となっていたかもしれないのに……。
「……」
もう叶わないと分かっていても、願わずにいられない。
セレナはぱたんと本を閉じ、机に置いた。
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