千の夜をあなたと【完】
<side.リアン>
――――冬の朝は暗い。
リアンはかじかんだ手にはぁっと息を吹きかけながら、井戸で野菜を洗っていた。
陽が上る前までに野菜を洗い終えてスープを作らなければならない。
リアンは野菜を洗った後、籠に入れて裏口から厨房に入った。
「ありがとな、リアン。そこに置いておいてくれ」
「おぅ」
リアンはテーブルの上に野菜を置き、脇の棚に置いてあった大きな鍋を手に取った。
なみなみと牛乳を入れ、火に掛ける。
リアンの褐色のくせ毛の髪が火を映し、赤く輝く。
その前髪の下の瞳は、新緑のような爽やかな緑色だ。
「それが終わったら、客室の片づけを頼んでいいかね?」
「了解」
リアンは言い、棚から木の椀をいくつか取った。
温めた牛乳を椀に一つずつ入れていく。
ここはアイリッシュ海に面した港町・リンクスの街道沿いにある小さな宿屋だ。
リンクスの隣には、コルウィンというそれなりの規模の町がある。