千の夜をあなたと【完】
三章
1.策謀
<side.エスター>
曇天の下、ちらほらと雪が舞っている。
エスターはティンバート家の執務室で役人や家令が持ってくる書類に目を通していた。
「……入市税は今月はどのくらいになる予定だ?」
「はっ、先月より多少増えるかとは思います」
「船着場の補修はどうなっている?」
「はっ、今月中にはだいたい終わるかと」
「来月からは本格的に漁が始まる。工事を急がせるよう伝えてくれ」
エスターは言いながらさらさらっと書類にサインした。
エスターがセレナの後見人となって、もう少しで一年になる。
この一年、エスターはセレナの後見人としてだけではなく、リカードの代理としてティンズベリーの施政にも携わってきた。
エスターがティンズベリーの全てを回していたと言っても過言ではない。
一年が経とうとしている今では、ティンバート家の家令や執事だけでなく、街の役人達もエスターにいろいろな相談事を持ってくるようになった。
エスターは子供達の教育係としてティンズベリーに招かれたが、エスターはもともとカレッジと高等法学院を出ており、政治や経済にも明るい。