千の夜をあなたと【完】
エスターは一通り書類にサインしたところで、人払いしエリオットを呼んだ。
エリオットはエスターの従者であり、エインズワースとの連絡など様々な雑用をこなしている。
エリオットは片手に何やらメモのようなものを持っていた。
「エスター様。エインズワースから、こんな情報が……」
エリオットは手にしていたメモをエスターに差し出した。
言うまでもなくエインズワースの情報網で掴んだものだ。
エスターはざっと目を通し、驚いたように眉を上げた。
「……本当か? これは」
「はい。マン島で、目撃したという情報も多数あります」
「まさか生きていたとはな。しかも、あの男と暮らしているとは……」
エスターは大きく長いため息をつき、腕を組んだ。
……あの娘の存在は、今となってはさほど脅威ではない。
しかも伯爵だった父を殺した賊に囲われているなど、本人にとってはこれ以上ない不名誉だろう。
――――賊にかどわかされた姫君。
そのレッテルは本人の意志に関係なく、一生ついて回る。
恐らく彼女は一生、こちらの世界に戻ってこようとは思わないはずだ。
多分このままマン島で一生を終えるつもりだろう。